クロの風景

クロの風景_f0121181_13142.jpg
OLYMPUS E-300 & ZUIKO DIGITAL 14-54mm F2.8-3.5



シャッタースピード 1/80
絞り F3.5
撮影モード プログラム
露出補正値 -0.7EV
感度 ISO100
焦点距離 54mm(35mm換算108mm)
測光方式 評価測光
記録方式 RAW
現像処理 SILKYPIX Developer Studio 3.0
WEB最適化処理 Photoshop Elements 6.0


突然ではございますが、今日はかな~り以前に作った小説などを…
「何故に突然?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれないですが、まあ、特に理由はないです。(笑)
当ブログのコンセプトには合わない気がしたので、どうかとも思ったのですが、たまにはちょっと違った趣向も面白いかな~…と、要は単なる気まぐれです。
ということで、小説というよりはかなり童話に近いですし、相変わらずボキャブラリーの乏しい読みづらい長文ですので、お見苦しい点も多いかと思いますが、お付き合いいただければ…




クロの風景

僕はクロ。
物心ついたときからこの家にいたからわからないけど、どうやらどこかの道端でうろうろしてたのを拾われてきたらしいのにゃ。

「クロ!おいで!」

あっ!ママさんが呼んでるにゃ!
きっと僕の大好きなかつぶしの時間なのにゃ!

ママさんはほんとは僕たちネコがきらいだったらしいのだけど、僕がこの家に来るようになって僕のこと一番かわいがってくれるのにゃ。
だから、この家の人間の中で一番大好きなのにゃ。

「ほら…、待ちなさい!」

痛っ!
またパパさんに怒られちゃったのにゃ…
パパさんも僕のことかわいがってくれるから好きなのだけど、時々怒るからいやなのにゃ…

「そういえば、姉さんいつこっちくるんだって?」

あれ?
息子さんいつのまに帰ってきてたのにゃ…
この息子さん、僕をこの家に連れてきた人らしいのだけど、いつも家にいないのにゃ…
たまにいると僕のことかわいがってくれるのだけど、ちょっとしつこいからあんまり好きじゃないのにゃ…

「再来週くらいからこっちこようかって言ってたけど~?」
「荷物とかあるんだろ?迎えいこうか」
「あっそお?そうしてくれると助かるわ~」


…そういえば、お嫁に行った娘さんが赤ちゃん生まれるからこっちに帰ってくるって言ってたっけ…
ママさんこの前うれしそうに支度してたにゃ…

「…本当に、二人ともいい子に育ってくれてお母さん嬉しいわ…」

あれっ?ママさん泣いてるにゃ…

「何言ってんの…、最近年のせいで涙もろくなってんじゃないの?」

…なんかママさんの心があったかくなってるのがわかるのにゃ…
ママさんが幸せそうな顔してるときはいつもこんな感じなのにゃ。
こんなときのママさんが僕は一番好きなのにゃ…

ねえ、ママさん幸せ?ママさん幸せ?

僕はこの家が好きなのにゃ。
パパさんに怒られたり息子さんにしつこくつきまとわれたりするけど、ママさんがいるから僕はこの家が好きなのにゃ。

いつまでもこのひと時が続けばいいのにゃ。
そうすれば僕も幸せなのだけど…

ガタンッ!!

「どうしたっ!」
「お父さん…、助けて…」


えっ!?どうしたのにゃ!どうしたのにゃ!

「そこに横にさせて!」
「救急車呼ぼうっ!救急車っ!!」


なんなのにゃ!何が起こったのにゃ!!
怖いにゃ…怖いにゃ…
怖いから逃げるのにゃ…



いったいなんだったのにゃ…
怖くて外に逃げてきちゃったけど、何が起こったのにゃ…
あれっ?
みんなどこかに行っちゃう。
なんかあわただしくて、息子さんもパパさんもおっかない顔してるのにゃ…

怖いのにゃ…怖いのにゃ…
しばらくここに隠れてるのにゃ…



もうどれくらいたったのかにゃ…
お腹がすいて戻ってきたら息子さん一人だけなのにゃ…
それになんか悲しそう…

「ニャア…」
「クロ…」


いったいどうしたのにゃ?

「ごめんな…、母さん病気で倒れちゃったから、しばらく戻ってこないんだよ…」
「ニ~ウ?」


帰ってくるの?

「大丈夫…、ちょっと長くなるかもしれないけど絶対帰ってくるから…」

なんか息子さん、やつれてるのにゃ…



ママさんのいない日々が続いたのにゃ…
いつになったら帰ってきてくれるのかにゃ…

「クロ…おいで…」

ママさんの変わりにこの家に来てくれたおばあちゃん…
おばあちゃんもママさんみたいで優しくて大好きだけど、やっぱりママさんの膝の中が好きなのにゃ…

早くママさん帰ってこないかにゃ~…



しばらくしたら娘さんが赤ちゃん産むために来たのにゃ。
ママさん、娘さんが来るの楽しみにしてたのに…

娘さんはいつもなんかそっけなくてあまり好きじゃないのにゃ。
おばあちゃんは「初めての赤ちゃんだから不安になってると」って言ってたけど、見てるとあんまりおばあちゃんと仲良くなさそう…

そんなこと思ってたら、あるときおばあちゃんと娘さんがけんかして娘さんこの家出て行っちゃったのにゃっ!

「何やってるんだよ!あの二人!!」

なんか息子さん怒ってるのにゃ…

「ばあちゃん九州帰したほうがいんじゃないか!?」
「しょうがないだろ…」

パパさん困ってるみたいにゃ…
「しょうがなくないだろ!姉貴も姉貴だけど、ばあちゃんも今がどんな時か少しは考えて欲しいよっ!」

どうしちゃったのにゃ…
僕はこの家大好きだったのに、なんか最近怖いのにゃ…



「俺、今日遅くなるから」
「ん…」
「晩ご飯いらんと?」
「…」


なんか異様な雰囲気の朝にゃ…
息子さん、おばあちゃんが話しかけてるのに全然答えないにゃ…

「じゃ、行ってくる…」
「あっ!ちょっと待って…」


バタンッ!!
「…」

どうしちゃったのにゃ!どうしちゃったのにゃ!
おばあちゃんこんなに優しいのに!息子さんだってママさんが「いい子に育った」って言ってたのに!!

みんなみんないい人たちばっかりなのになんでこんな風になっちゃうのにゃ?
僕はこの家が大好きだったのに、これじゃあ僕、嫌なのにゃ!!

ママさんがいないからだ!
ママさんがいないからこの家おかしくなっちゃったのにゃ!

早くママさん帰ってこないかにゃ~…



相変わらず息子さんとおばあちゃん、ほとんど話もしない…
その上、最近パパさんと息子さんとおばあちゃんが変わりばんこでいなくなることが多くなった。
ママさんの病気が良くなってきたからって言ってたけど…

息子さん、もうすぐママさん帰ってくるんだね?
そうだよね?

そしたらこの家も元の僕の大好きな家に戻るよね?
そうだよね?



ジリリリリン!…ジリリリリン!…

んっ?なんなのにゃこんな時間に…
まだ眠いのにゃ…

「んっ…わかった…すぐ行く…」
「おいっ!」
「わかってる…別で動けるように車二台で行こうか…」


えっ?
どうしたっていうのにゃ…
もしかしてママさん帰ってくるのにゃ?

それにしては二人とも怖い顔してるのにゃ…

「クロ、ちょっと留守番しててナ…」

いいけど…どうしったっていうのにゃ…
息子さん、なんか寂しそうにゃ…



しばらくするとみんな帰ってきたのにゃ。
おばあちゃんも息子さんもパパさんも…
あれ?
娘さんもいる…
おばあちゃんと仲直りしたのかな…
それに…

なんか知らない人がいっぱい来たのにゃ!!
どうしたのにゃ?
ママさん帰ってくるんじゃないの?

怖いのにゃ…怖いのにゃ…

また逃げるのにゃ…

しばらくどこかに隠れてれば、きっと帰ってきたときにはママさんがいるのにゃ…
だからそれまでの我慢なのにゃ…



あ~っ…お腹すいたにゃ~…
家の中はまだ騒がしいのにゃ…

でも、きっとママさんが病気治って帰ってくるからみんなその準備で忙しいのにゃ…

だから我慢しなきゃ…

きっとそのうちママさんが大好きなかつぶしくれるのにゃ…
僕の大好きなママさんの膝の上で、きっとなでなでしてくれるのにゃ…
あったかい膝の上でなでなで、なでなで…

ママさんのにおいに包まれて、僕はフワフワ、スヤスヤ眠るのにゃ~…

だから、それまで我慢、我慢なのにゃ…



息子さんは相変わらず忙しそうにしてる。
いっぱいあった車が一台、また一台と減っていく。
やがて車が全部なくなると、息子さんも家の中に入って、ようやくもとの静かな家に戻ったのにゃ…

やっと会えるにゃ!やっと会えるにゃ!
ようやくママさんに会えるにゃ!!

「ニャ~…」
「クロッ!」
「人がいっぱいで怖かったろ~…お帰り、クロ」
「ニャッ!」
「クロ?…どこ行くんだ?クロっ?!」
「ニャ~…」


そんなことより、ママさんどこにゃ?!ママさんどこにゃ?!

「ニャ~…、ニャ~…」
「…クロ…もしかしてお母さん探してるのか?」
「ニャ~…」


当たり前なのにゃ!ママさん帰ってきたんでしょ?

「ニャ~…」
「…クロ…、ごめんな…、お母さんもう二度と帰ってこれなくなっちゃったんだよ…」
「ニャッ!?」
「…ごめんな…、…ごめんな…、クロ…、ごめんな…」


何でにゃっ!
帰ってくるって言ったのに!
息子さん、何でそんなに泣くのにゃ!何で謝るのにゃ!!

帰ってこないってどういうこと?
わからないのにゃ…わからないのにゃ…

「きっとクロにもわかるとね…」

えっ?
おばあちゃん、僕わからないのにゃ…
ママさん帰ってこれないってどういうことなのにゃ?

「く~っ…!」

なに?なに?
息子さん、何でこんなに泣いてるのにゃ?
息子さんだけじゃない、パパさんも娘さんまで…

「お前は良くがんばったと…、お母さんのために良くがんばったとよ…」
「がんばってない…、がんばってない…、まだできることがあったのに…、まだしてあげられる事があったのに…」


…おばあちゃんには聞こえなかったみたいだけど、僕には聞こえたのにゃ…
息子さんの悔しそうな声…

もうママさん帰ってこないんだ…
もうママさんのあったかい膝の上で眠ることができないんだ…



あれからしばらくして、おばあちゃんは九州に帰り、僕たちは新しい家に引っ越したのにゃ。
息子さんに新しい家に連れてこられたときにはもしかして捨てられるのかと思ってびっくりしたけど、あとからパパさんも来て安心したのにゃ…

でも、新しい家は嫌いなのにゃ…

新しい家には一箇所だけママさんのにおいがするところがあるんだけど、そこに行くと…
「こらっ!仏壇の上に乗るな!!」
ってパパさんに怒られるのにゃ…

それに、前の家はパパさんとママさんと息子さんと僕とで、みんな一緒にご飯食べてたのに、この家に来てからは息子さんパパさんとご飯食べようとしないのにゃ…
仕事から帰ってくるとすぐに上の部屋にこもっちゃって、パパさんと全然話しようとしない…

やっぱりママさんがいないから?
ママさんがいれば新しい家でもみんなでご飯食べられたの?

ママさん…僕寂しいのにゃ…
パパさんも息子さんも僕に優しくしてくれるけど、やっぱり僕はママさんになでなでしてほしいのにゃ…

ママさんの声、ママさんのにおい、ママさんのぬくもり…
どこに行けばママさんに会えるのにゃ?



最近僕はあまり家にいることがなくなったのにゃ…
家にいてもなんか居心地悪いし、パパさん毎日お酒ばっかり飲んでるし…
息子さんは今まで以上に家にいることがなくなって、帰ってきてもつまらないのにゃ…

あるとき、外で遊んでたら、なんか見たこともない虫に刺されたのにゃ…
ちょっとちくっとしたけど、あんまり気にしてなかった…
でも…

なんかだんだんまっすぐ歩けなくなって来たのにゃ~っ…

おかしいのにゃ…おかしいのにゃ…
なんか世界が曲がって見えるのにゃ…

「クロッ!どうした?!」

あっ…、息子さんお帰りなさいなのにゃ…
あれっ?息子さんの顔も曲がってるのにゃ…

あ~っ…なんかくらくらするにゃ…
くらくら、ふらふら…

つらいのにゃ…
まっすぐ歩けないのにゃ…
僕どうしちゃったの?
もしかして僕死んじゃうの?

つらいのにゃ…、つらいのにゃ…
ママさん…助けてにゃ…

息子さんが僕のこと心配そうに見てる…

息子さん僕のこと心配?僕のこと心配?
なら、パパさんと一緒にご飯食べてにゃ…
前の、ママさんがいたときの家に戻ってにゃ…

ねえ、息子さん?
パパさんともっとお話してよ…
パパさんと仲良くして、しつこくてもいいから僕のことなでなでして?

ねえ、息子さん?
ねえ、息子さん?



相変わらず僕はまっすぐ歩けないまま…
最近なんか息苦しいのにゃ…

歩くのもつらい…
苦しいのにゃ…

ママさん…会いたいにゃ~…
ママさん?ママさん?
またママさんの膝で眠りたいのにゃ…

苦しい…くらくらする…
頭がぐるぐる回るのにゃ…

ママさん…ママさん…

「クロ!いらっしゃい!」

あっ!
ママさんだっ!!

ママさん!ママさん!!
帰ってきたんだね!ママさん!!

ああ…ママさんのにおいだ…
ママさんのぬくもりだ…
ママさん…ママさん…

これでこの家も元に戻るよね!そうだよね!!

「そうね…、時間はかかるかもしれないけど…」

あれ?
ママさん僕の言葉わかるようになったんだね…
まあいいや…

ああ…
なんか気持ちが良くなってきた…

ママさんの膝の上…
暖かくてやわらかくて…フワフワ、スヤスヤ…

もうずっと一緒だよね?
ねえママさん…
ずっと一緒だよね?



「クロ…、死んだぞ…」
「んっ…、そうか…」


息子さんは僕がママさんのところに行ったのを聞くと、一言だけ、寂しそうに答えたのにゃ。

パパさんも息子さんもまだなんかうまくいってないみたいだけど、ママさんが大丈夫って言ってるんだから大丈夫だよね?

やっぱりママさんのそばはいいな~…
あったかいし、いいにおいがするし…
フワフワ、スヤスヤ…

ねえ、ママさん…
きっとみんな幸せになれるよね?
だって、僕だってこうしてママさんのそばで幸せになれたんだから、みんな幸せになれるよね?

ねえ、ママさん?


by ki_ex | 2009-02-03 01:44 | 小説 | Comments(0)